カレーや肉じゃがなど煮物にしてもおいしいじゃがいもですが、時として長いこと煮た時に崩れてしまったりすることがあります。それはじゃがいもには煮崩れししやすい品種と、そうでない品種が存在するためです。この記事では主に煮物に適しているといわれる粘質系のじゃがいもを御紹介いたします。
肉じゃがなどで崩れにくいじゃがいも
メークイン
原産地
イギリス(ベンサム)
主産地
北海道
名称由来
春に美味しくなることから名付けられたとされる説とイギリスの春の祭りメーデーで選ばれる女王(クイーン)に由来する説があるが後者の方が信憑性が高いとされる。品種名としてはメークインが正式名称メイクイーンではない。
生態
楕円形で表面はなめらか肉色は白です。糖分が一般的なジャガイモより高いが低温で貯蔵するとより増す。
メークインの歴史
イギリスのチェルテンハムに近いベンサムでE.Sadllerという人が民間に栽培されていたのを1900年にサットン父子商会が世間に紹介したもので両親は不明である。この年に登録され、大正時代初期にアメリカを経由して日本に持ち込まれた品種。1928年(昭和3年)には北海道の釧路や根室地方などにおける優良品種とされ、3年後の1931年(昭和6年)には一般奨励品種とされた。昭和30年代に関西で人気になった。北海道厚沢部町の道立試験場で初めて栽培されたことから、同町は穀相発祥の地として自認、毎年夏に世界最大のコロッケをあげてPRしている。その他厚沢部のシンボルマークはメークイーンをモデルにした「おらいも君」である。また厚沢部町ではほかの品種と交わらないようにじゃがいもはメークイーンの実しか栽培されていません。21世紀になって俵正彦によって、突然変異からできた「タワラ小判」「タワラ長右衛門宇内」が選抜された。生食用としては男爵の次に多く作られている品種である。主に西日本での消費が多く、また世界的に見ても特に日本での消費が多い。ちなみに原産地のイギリスでは現在ほとんど栽培されていない。
メークインの特徴、利用法
粘質で煮崩れしにくいことからカレーやシチュー、肉じゃがなど煮込み料理に適している。芋は楕円形状で皮が黄色く肉質は淡黄色。凸凹が少ないのが特徴。ポテトグリコアルカロイドという神経に作用する天然毒素が他の品種に比べて多いため変色などしている箇所は大きく取り除いて使用したほうがいい。
とうや
原産地
北海道
主産地
北海道
名称由来
洞爺湖の名前に由来。
生態
肉色は黄色で芽が浅く、丸いのが特徴で皮が剥きやすい。デンプン質はやや低め。
とうやの歴史
1981年(昭和56年)にジャガイモシストセンチュウに強い「R392-50]にYウイルスに強い「WB77025-2」を交配して生まれた。ジャガイモシストセンチュウ抵抗性及びウイルス病耐性および大粒で早出しを目標として、農研機構で育成され1992年(平成4年)に「ばれいしょ農林31号」として認定されると共に北海道の奨励品種に認定され、その年に登録出願、1995年(平成7年)に品種登録された。JAきたみらいなどでは「黄爵」(とうや)の名称で販売されている。
とうやの特徴、利用法
早生品種で、内部の肉色が黄色くカロテンやビタミンCの含有量がやや多い。デンプン含有量は15%でやや粘質であるため煮物に適し、揚げ物に向いてない。粉っぽさがなくなめらかでほくほくしてないが、せん切りにしてサラダなどに利用するのに向いている。皮と肉色から別名「黄爵」とも呼ばれる。
ニシユタカ
原産地
長崎県
主産地
鹿児島県、長崎県
名称由来
西南暖地に適する豊産種ということで命名。
生態
長崎県をはじめとした九州の赤土で作られる主要品種の一つ。芽が浅くてくぼみが少ない。茎短く直立、肥大性良、多収であり栽培しやすい品種でもある。やや粘質、肉色は淡黄、芋肌はやや粗である。
ニシユタカの歴史
長崎県総合農林試験場で交配、育成され、1978年(昭和53年)に「ばれいしょ農林23号」として品種登録された。親は母がデジマ、父が長系65号。長崎県の奨励品種にもなっている。現在九州などから出荷される「新じゃが」の多くはこの品種である。
ニシユタカの特徴、利用法
火の通りが遅く、煮崩れしにくいためカレーなど煮込み料理に向いている。また変わったところではじゃがいもそうめんやきんぴらなどにも用いられています。コロッケやこふき芋などの適正は出島より劣るとされています。デジマと同じように皮が薄いのが特徴で皮ごと調理してもおいしく食べられます。
ピルカ
原産地
北海道
主産地
北海道
名称由来
「美しい」という意味のアイヌ語に因む。
生態
中早生の大粒な品種で形は長卵形、表面はつるっとしている。肉色は淡黄色。収量も男爵芋やメークインに比べ多く、ジャガイモシストセンチュウに対しても抵抗性がある。
ピルカの歴史
1994年に長崎県総合農林試験場愛野馬鈴薯支場において西南暖地用品種である「メイホウ」に寒冷地用品種の「十勝こがね」交配し、できた種を旧農林水産省北海道農業試験場(現・農業。食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター)において選抜、育成されたものです。
2009(平成21年)に「ばれいしょ北海道50号」として北海道優良品種にその翌年「ばれいしょ農林61号」として農林認定されています。品種登録は2009年に出願され、2011年(平成23年)に登録されました。
ピルカの特徴、利用法
煮崩れしにくく変色も少ないため水煮系の料理に適している。また油で焼くとカリっとするため炒め物、揚げ物などにも向いています。
アローワ
原産地
フランス
主産地
鹿児島県
生態
中早生の品種。肉質はやや粘質で肉色は淡黄色、楕円形で芽が浅く表面はなめらかである。
アローワの歴史
Germicopa社というフランスの会社が育成したフランス原産品種です。株式会社ジャパンポテトが導入し2009年(平成21年)に品種登録されています。
アローワの特徴、利用法
煮崩れしにくくおでんやカレー肉じゃがなどに向いています。やや粘質ではありますが、茹でても軽いほくほく感を楽しめ、コロッケにすると滑らかさを堪能できます。
シェリー
原産国
フランス
主産地
北海道、神奈川県
生態
長楕円形で皮が赤色、肉色は淡黄色。表面はなめらかで芽が浅い。収量が多くジャガイモシストセンチュウに抵抗性を持っている。
シェリーの歴史
ジェルミコパ社が1985年に「ローズバル」に「VK 76.199.3」を交配し育成した固定種で、調理向き品種として1997年に登録。2004年(平成16年)には日本でも品種登録されています。国内では株式会社ジャパンポテトが独占販売権を持っています。
シェリーの特徴、利用法
粘質で煮崩れしにくく、カレーやシチューなど煮物料理に向く。皮ごと食べれるもの特徴の一つである。加熱後時間が経過すると固くなってしまったりするので早く食べることをおすすめします。
レッドムーン
原産国
アメリカ
主産地
北海道
生態
楕円形で表面はなめらかで皮が赤くて薄い、肉色は黄色。皮が薄くて機械収穫がしにくい為か大規模農園での栽培が難しいとされ、小規模農園や家庭菜園向き品種として知られる。デンプン価は低く粘質系である。
レッドムーンの歴史
株式会社サカタのタネによって、パン アメリカンシード(株)から導入した種子から選抜、育成された固定品種で1988年(昭和63年)に品種登録に出願され、1991年(平成3年)に登録されました。出願時の名称はレッドエコー」でした。その見た目から紅メークイン、紅ジャガイモとも呼ばれている。
レッドムーンの特徴、利用法
さつまいもを思わせるような優しい甘味が特徴、粘質で煮崩れしにくいためカレーやシチュー、肉じゃがなどの煮込み料理に向いています。ポタージュにしても滑らかな舌触りが味わえます。逆にほくほくはしていない上に水分が多く油を良く吸うのでフライドポテトには向いていません。
ノーザンルビー
原産国
北海道
主産地
北海道
名称由来
きれいなピンク色であることから由来。
生態
皮も中身もピンクで表面はなめらかで芽は浅い。ジャガイモシストセンチュウに高い抵抗力を持っている。一個の重量が重いためか1株につく芋の数が少ない。
ノーザンルビーの歴史
旧農林水産省北海道農業試験場において1993年(平成3年)から受粉育成を開始された品種で2006年(平成18年)にはばれいしょ農林56号「ノーザンルビー」の名で命名登録、2009年(平成21年)に品種登録されました。
ノーザンルビーの特徴、利用法
やや粘質で煮崩れは少なく調理できるほか、色を生かした料理にすると見栄えする。ポタージュやポテトチップス、ポテトサラダなどに調理してもピンク色のまま仕上がる。
はるか
原産地
長崎県
主産地
長崎県、北海道
生態
倒卵形で肉色は白く、男爵芋よりも少し大きい。打撲について強い抵抗性を示す。芽がピンク色に色づいているのが特徴。生食することができ、熱を加えるとねっとりする性質がある。
はるかの歴史
1994年(平成6年)に長崎県総合試験場愛野馬鈴薯支場において多収性で目の周囲が赤い「T9020-8」にジャガイモシストセンチュウに抵抗性をもつ「さやか」を交配し生まれた実生を国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の北海道農業試験場で選抜育成された多収でジャガイモシストセンチュウに強く、食味も良い新しい品種です。2007年(平19年)に登録出願2009(平成21年)品種登録されています。
はるかの特徴、利用法
剥いた後の変色もしにくいので、せん切りにして生でサラダとして食べるのがおすすめ、歯触りがとても良いです。煮崩れもしにくいためカレーや肉じゃがなどの煮物にもあい、サラダ及びコロッケ加工適正もある中生の生食用系統です。
まとめ
カレーやシチューなどの煮込み料理に入れても煮崩れしにくいじゃがいもを御紹介してきました。ただ煮崩れしにくく粘りが出てしまうことからポテトサラダなどには一般的に合わないとされていますが、中には粘りよりも滑らかさが引き立ち、おいしいポテトサラダが出来上がる品種などもありますので、いろいろ試してみるといいと思います。また粘質系のものは生で食べてもおいしくいただけるものが多いので、せん切りにするなどして生のサラダに用いてみてもいかがでしょうか?