鮑、鰒、石決明、全てアワビと読みます。
鮑、高級食材ですね。献立を書く際どの様な鮑料理にするか迷ってしまいますね。存在感が強くどの様な料理にしてもメインになってしまうほどなので鮑料理をするときはいつも迷ってしいます。
『磯の鮑の片思い』なんて言葉もあります。元は万葉集の『伊勢のあまの朝な夕なにかづくといふあわびの貝の片思ひして』からきているようです。
アワビは貝殻が片側にしかないように見えるので、もどかしい片思いの代表にされてきた。ロマンチックな愛の表現の一つのようです。
よく鮑の話になると、赤アワビとクロアワビの比較等の話をしますが、赤アワビとは輸入品の鮑で流通上はオーストラリアアワビと言います。殻が赤みがあるのが特徴です。またメガイアワビの事を赤アワビと呼ぶ方もいますので少々ややこしいですね。
鮑の基本情報
ミミガイ科アワビ属の巻貝
アワビは卵からかえったばかりの幼稚期には、他の巻貝同様にらせん形の殻と蓋を持っている。それが成長すると巻き方が急に大きくなり、蓋を失う。
クロアワビを雄、メガイアワビを雌とされる考え方もあるが、これは間違いである。雄雌の判断は内臓後端にあるつのわたと呼ぶ部分の色で区別する。緑なら雄、クリーム色なら雌となる。しかし、貝の後ろから見えるわけではないので、購入前に判断はできない。
【名前の由来】
諸説あるが、『合わぬ身』や、殻が一枚なので『合わずにわびしい』、『不合肉(あはぬみ)』がアワビになったという様な説がある。
鮑の旬
11月~12月エゾアワビ 7月~8月エゾアワビ以外
取れる場所によっても少々違うがエゾアワビの11月~12月は東北~北海道のものは冬の時期に旬となる。岩手県等では資源保護の為11月~12月しか鮑を取れない地域もある。一方関東以南で取れるクロアワビなどは夏が旬となる。
鮑の種類
日本では鮑は4種クロアワビ、マダカアワビ、メガイアワビ、エゾアワビ(クロアワビの北方種)があります。
この4種類の産地、特徴などを紹介いたします。
クロアワビ
別名 オンガイ、オガイ
6月~8月が旬
クロアワビは高価なアワビの中でも最も高価で取引される。近年ではクロアワビが取れなくなってきたためクロアワビの北方種のエゾアワビの稚魚をクロアワビ生息地に放流して大きくなったものをクロアワビとして出荷している事もあるようだ。
クロアワビは房州半島から九州にかけて分布し水深20mの岩礁域で主にコンブ、ワカメ、アラメ、カジメなどを食べている食用になるまでに4年~5年かかる。
殻長20㎝幅17㎝高さ7cm位。楕円形でふくらみが強い。
クロアワビ産地
千葉県南房総、三重県、和歌山県、長崎五島列島、伊豆半島など、太平洋沿岸や暖流の影響を受ける外洋に面した所。
メガイアワビ
別名 ヒラガイ、アカアワビ、アカガイ
6月~8月が旬。産卵期が秋から冬。
クロアワビと比べると安価。それでも一般的には高級食材。
メガイアワビは大きい物で20㎝程殻は浅く、クロアワビに比べると、ふくらみが浅い。殻の表面は平でくぼみが目立たない。
裏返したときは個体差は多少あるが、クリーム色のものが多い。
メガイアワビ産地
東北から南の日本海沿岸、房州以南の太平洋沿岸、瀬戸内海に分布。クロアワビより漁場に多く生息している。主に西日本が中心
マダカアワビ
別名 ビワガイ
旬は6月~8月
他のアワビに比べて深いところに生息している。
殻の長さが30㎝程になり殻は深い。えんがわが広く表面は黄色がかってる。
国内アワビの中で特質したアワビで加熱すると最も美味と言われている。蒸して食すのが一番うまいとされている。1キロ以上のものは甘味も強く旨味も良く、香りも非常に良い。『アワビの王様』とも呼ばれる。しかし現在では幻のアワビと呼ばれるくらい漁獲量が非常に少ない。国内のアワビ漁獲量のおおよそ1%以下といわれている。
マダカアワビ産地
房総半島以南の太平洋。日本海西部から九州。
鮑料理・調理法
アワビの選び方。身が良く動き艶の良い物を選び、生きているうちに使うのが基本。
殻付きのまま、身に塩を振り、たわしでまんべんなく汚れを落として磨き、水洗いする。汚れが取れると同時に身を引き締める役目もはたす。この作業は基本どの料理にも行うので、以降の文章では『塩みがき』とさせてもらう。
殻の外し方は鮑の殻の薄い部分から卸金の柄を差し込む。しゃもじやナイフでもはずせる。殻、身、わたにわけておく。身についている口ばしはブイ字に外す。口は何しても美味しくないので必ず外す。
お店によって違いがあるとは思いますが、私はしゃもじが入るサイズの鮑はしゃもじで殻を外しています。鮑の身を傷つけることなく、外れる瞬間の音がたまらなく好きです。
鮑のお造り(刺身)
- 塩みがきして殻から外す
- 酢を少量振り、えんがわとわた(肝)ははずして分けておく
- 身の内側を上にして縦に細かく包丁を入れる
- 身を横に置き2㎜以下で薄切り、もしくはさざ波切りにする
- えんがわは固いので小さめに切って盛り付ける
- わたはサッとボイルして裏漉し、土佐醤油にまぜて肝醤油をつくる
- 殻を使って刺身を盛ってあしらいを添えて提供
わたは生のまま使えるという方もいますが、私はボイルして使います。
さざなみ切りとは蛸などでもよく見る、包丁を細かく左右に動かしながらゆっくり切る技法です。醤油がなじみやすくする事と箸で持ちやすいようにしてくれます。
水貝(刺身)
- 塩磨きしたアワビは殻から外し、わた、えんがわを取り除く
- 身を大きめのサイコロ位に切る
- 2~3%の塩水にだし昆布を叩いて適当な大きさに切り塩水にいれ、アワビもこの中にいれる
- 胡瓜、谷中生姜、独活、を灰汁抜き、酢を使い色だし等して形よく包丁
- 器に氷を入れアワビの漬かっている塩水を注ぎ材料を全て形よくいれる
- 土佐酢にレモン等添えて提供
夏ぴったりの爽やかな料理です。
土佐酢の作り方は合わせ酢のページをご覧ください。
アワビ海鼠腸和え(珍味・前菜)
海鼠腸(このわた)はナマコの内臓の塩辛です。
- アワビのえんがわ、手くずを細く切る
- ①を酒で炒るか熱湯で霜降りする
- 海鼠腸(このわた)と和える
アワビの手くずや固いえんがわを利用するので、非常に経済的な料理となっております。
和え衣のページで海鼠腸の衣などもありますので、そちらを使われても良いかと思います。
鮑豆腐(椀種・揚げ物・煮物・先付け)
- アワビは塩みがきして殻から外し、えんがわは外すしておく
- アワビはすり鉢ですりおろし裏漉しする(わたを使う場合ここで一緒に裏漉し)
- 豆腐は一度ボイルして水気をよく切る(1日前に段取りしておく)
- アワビと豆腐を混ぜ合わせ蒸す(用途によってここで下味をつける)
鮑とろろ(先付け)
- アワビは塩みがきして殻を外し、えんがわは外しておく
- アワビはすり鉢ですりおろす。山芋もすりおろす
- アワビと山芋を混ぜ合わせ、提供する。天には柚子
じゅんさいやオクラを入れ酢の物や小吸物などに利用することもできる。
鮑煮貝(前菜・煮物)
煮貝には2つ定義があります。1つは鮑を調味した味噌で煮詰めて作ったもの。もう一つは醤油煮の事で一般的にはこちらが有名で山形甲府の名物品としても知られている。どちらもそのまま使われるよりは加工して使用される事が多いようです。今回は醤油煮の方を紹介します。
- アワビは塩みがきして、殻から外す。
- 酒10、薄口1の割合の調味液を作る
- 調味液の中にアワビ、大根の輪切り、昆布少々をいれ3時間程蒸す。
冷めても柔らかければ、成功です。殻ごと蒸したり、煮たりする人もいます。私は殻の中は綺麗だとは思わないのでどうしても殻ごと作りたい場合一度全て取ってから、殻の中まで掃除して戻すほうが良いと思います。
前菜や煮物の一品にする事ができ日持ちもするので、使いきれなくなったら作り置きしておくのもいいと思います。
煮貝の使い方として色々ある事を知りましたのでご紹介します。
鮑の雲丹焚(前菜)
- アワビは塩みがきして殻を外し身だけにする
- アワビは薄くそぎ切りにしておく
- 酒で伸ばした雲丹でさっと炊く
アワビは冷めると固くなってしまうので温かいうちに提供するか、味を薄めに作った煮貝などで作ると固くなりにくいので煮貝を使う事もオススメする。
鮑の柔煮(煮物)
- アワビは塩みがきして殻を外す
- 大根の輪切、酒と水を入れて2時間程蒸す
- 薄口、塩、酒、味醂で調味液を作り、汁の1割程度の赤味噌をいれる
- 圧力なべで20分
蒸して戻す際の汁を使って作る人もいます。蒸す際に小豆をいれて。鮑の小豆煮とする事もできます。小豆煮の際は味噌は使わない。
鮑腸覆輪(あわびわたふくりん)(前菜)
- アワビは塩みがきして殻を外す。
- 塩蒸しして縦半分に切る
- 腸は煮て細かく切ってすり鉢で擂る
- 腸に魚のすり身を加えて、塩、薄口、味醂で味を調える
- 殻にアワビの腸入りのすり身を、蒸した鮑の身を形よくつけて蒸す
同じような料理に『遠山あわび』がある
黒っぽい鮑の蒲鉾(かまぼこ)だと思って頂ければよいと思います。鮑が余ってしまった時などに活用する鮑料理です。新鮮な鮑をこの料理にすることはありません。
鮑のステーキ(焼き物・強肴)
色々ありますが、肝醤油やバター醤油などでステーキをする事が多いでしょうか。
献立お役立て!
鮑料理は夏の献立には欠かせない食材の一つですね。アワビのステーキは作り方、タレやソースなどによって色々あるので割愛させて頂きましたが、私は肝バター醤油でよく提供していました。
料理長になりたての頃はお客様の前で鮑の踊り焼きなどもやりましたが、ホールの人間がその場で殻を取り、切って提供していたので、固かっただろうなぁーっと今になって思います。その時は少々パフォーマンスや見た目を重視していたのかもしれません。
マダカアワビが手に入った時は必ず火を通す調理をして下さいね。